日本の映画制作において、インティマシー・コーディネーター導入の第一作目となった作品が配信されたことで、少しずつではありますが、インティマシー・コーディネーターという仕事が、業界だけでなく、一般の方々にも認知され始めていることを実感しています。

インティマシー・コーディネーターとは、センシティブシーンにおいて俳優の安全を守り、監督の演出意図を最大限に実現できるようにサポートするスタッフです。センシティブシーンは聞き慣れない言葉かと思いますが、俳優がヌードになるシーン、またはヌードの有無に関わらず、疑似性行為や親密な身体的接触のあるシーンを意味しています。

人間の業を描く映画やドラマなどの芸術において、多くの製作者からセンシティブシーンが必要とされる一方、その表現過程においては曖昧で不透明な部分も多く、特に2017年の#MeToo運動をきっかけに、急速に注目されてきたのがインティマシー・コーディネーターという役職です。表現に正しい / 正しくないを定義するのが難しいのと同様に、製作者と俳優、または俳優同士のアプローチにも人の数だけ方法があり、時にそれが本意ではなかったとしても、相手を傷つけてしまうことが少なくはありません。名作と評される作品がある一方で、その製作過程で心や身体に傷を負ってしまう俳優やスタッフを生まないために、インティマシー・コーディネーターが存在します。

インティマシー・コーディネーターの役割として、監督、プロデューサー、俳優それぞれとの事前の打ち合わせがあります(必要であればマネージャーや所属事務所も同席します)。監督が表現したいことを描くことを前提とし、俳優がどこまでの心身的表現を許容するか、そのすりあわせを仲介します。ト書きには書かれていない細かな演出、フレームサイズなどをヒアリングし、どうすれば安心安全に表現できるか、そのサポートに尽力します。また、前貼りの準備や、クローズドセット(センシティブシーンの撮影を必要最低人数で行うこと) の遵守などもインティマシー・コーディネーターの大切な役割です。俳優に不安やストレスがないようサポートすることで安心してお芝居に集中できる環境を作ることが大切であり、結果として作品の質をより高めることに繋がると信じています。

一方、監督や製作者の演出・表現内容やその意図には介入しません。疑似性行為や身体的接触を振付の一種と捉え、監督に求められた際に助言することはありますが、内容に口を出す立場にはありません。

映像制作においては、監督という大黒柱のもと、キャストが彩を与え、数多くのスタッフがそれを支えます。作品に携わるすべての関係者が安心安全に職務を全うできるよう、インティマシー・コーディネーターとしてその一端を担えるよう尽力していきます。

2021年7月 浅田 智穂

NEWS

浅田智穂Chiho Asada

Intimacy coordinator
English interpreter

Intimacy Professionals Association

1998年、ノースカロライナ州立芸術大学(University of North Carolina School of the Arts)卒業。

帰国後、東京ディズニーシー建設 / オープン準備時の通訳、2002 FIFA日韓W杯に於ける㈱電通内の社内通訳として従事。
2003年、東京国際映画祭にて審査員付き通訳として参加したことがきっかけとなり、
日本のエンターテイメント界と深くかかわるようになる。

日米合作の映画『The呪怨』(監督:清水崇)において、企画から撮影、公開時のプレミアに至るまで、通訳として映画の現場に初参加。
撮影現場では監督付き通訳として、主に監督⇄キャストとの間に入り、綿密なコミュニケーションをとる役割の一端を担う。
その実績が認められ、以降『呪怨パンデミック』(監督:清水崇)、『シャッター』(監督:落合正幸)などの映画作品に参加する。

舞台においては『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『メリーポピンズ』『Endless SHOCK』『滝沢歌舞伎』などの数多くの作品に
おいて、海外を拠点とする演出家、振付家、ダンサーなどと、日本の製作者、キャストとの間の通訳として活動。

そのほか、様々な日本映画において劇中における台詞の英訳や美術装飾品の翻訳、キャストの英語台詞の指導などを務める。

2020年、Intimacy Professionals Association(IPA)にてインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了。
IPA公認のもと活動開始。Netflix作品『彼女』において、日本初のインティマシー・コーディネーターとして作品に参加。
以降も、複数のプロジェクトに携わっている。

Chiho (she/her) has been working as an English/Japanese interpreter in the entertainment industry for over 15 years. She has worked as an interpreter between directors and cast members on a number of Hollywood Japan co-production films, and she has also worked as an interpreter for directors and producers who are adapting Broadway musicals to the Japanese market. Her credits include being the interpreter to the directors of Columbia Picture’s The Grudge and The Grudge 2, 20th Century Fox’s Shutter, and Cameron Mackintosh’s musical theater productions of Les Misérables, Mary Poppins, and Miss Saigon. Her years of working as an interpreter and communicating closely with directors and actors with compassion makes her a perfect match with the world of intimacy coordination. Chiho is a graduate of the University of North Carolina School of the Arts and holds a BFA in Design and Production.

She worked as an intimacy coordinator on Netflix movie Ride or Die (2021) which is the first Japanese film to ever work with an IC and currently working on several Netflix Japan projects. She is eager to spread the awareness of intimacy coordination to the Japanese film industry.

CHIHO ASADA, 浅田智穂

インティマシー・コーディネーター 参加作品

  • 連続ドラマ『大奥』
    演出:大原拓,田島彰洋,川野秀昭
  • 連続ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(英題:Elpis)
    監督:大根仁,下田彦太 主演:長澤まさみ,眞栄田郷敦,鈴木亮平
  • 連続ドラマ『サワコ 〜それは、果てなき復讐』
    監督:滝本憲吾,藤澤浩和,中村圭良 主演:趣里,深川麻衣
  • ミュージカル『ミス・サイゴン』(英題:Miss Saigon)
    演出:Lawrence Konner 主演:市村正親,駒田一,伊礼彼方,東山義久
  • Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(2023年配信予定) 
    監督:江口カン 主演:一ノ瀬ワタル
  • Netflixドラマ『金魚妻』(英題:Fishbowl Wives)
    監督:並木道子 主演:篠原涼子
  • Netflix映画『彼女』(英題:Ride or Die) 
    監督:廣木隆一 主演:水原希子, さとうほなみ

英語通訳 / 翻訳等 参加作品

  • 映画『約束のネバーランド』(英題:The Promised Neverland)
    監督:平川雄一朗 主演:浜辺美波
  • 映画『シャッター』(英題:Shutter)
    監督:落合正幸 主演:Joshua Jackson, Rachael Taylor
  • 映画『L change the WorLd』
    監督:中田秀夫 主演:松山ケンイチ
  • 映画『呪怨パンデミック』(英題:The Grudge 2) 
    監督:清水崇 主演:Amber Tamblyn
  • 映画『THE JUON / 呪怨』 
    監督:清水崇 主演:Sarah Michelle Gellar